アート作品からサステナブル・キャピタリズム(経済活動を通じた社会貢献の実現)を提唱し、実現を目指すMAGO MOTORS JAPAN(株)の取締役 木村様にインタビュー。
代表の長坂氏は2017年6月、東京ドーム32個分の敷地面積と言われる、”世界最大級の電子機器の墓場”となっているガーナのスラム街と出会う。現地ゴミ山の課題と労働環境の解決を目指して、ゴミを用いたアート作品を生み出し、最高額1点2億円で販売。また、2021年の売上は合計8億円、2022年には約900点ものアートを展開し、これらの収益で現地にアート教室の設立やガスマスクの配布、現地住人の雇用を行う。
環境・文化・経済の3つを循環させ、サステナブルタウンの創造に向けて様々な活動を展開する。
■立ち上がりの背景
売れない作家人生から、ガーナと出会う
路上アーティストとして世界15ヵ国を巡りながら路上ライブペイントを行うアーティストとして活動していた代表の長坂氏は、当時の年収が100万円程の売れない作家。主な収入源はスマートフォンのガジェットなどを仕入れて販売する転売ヤーで食い繋いでいたという。
そんなある日、2017年頃にガーナの首都アクラの郊外に位置するアグボグブロシーで大量の電子機器廃棄物が国外から持ち込まれているゴミ山に出会う。スラム街の敷地面積は東京ドームおよそ32個分。そこで暮らす3万人の住人は電子ゴミを燃やして残った金属を売り、1日12時間働いて月500円の賃金で暮らしていた。
燃やすことで有毒ガスなどが発生し、空気が汚染される。更にその火を消化するために水を撒き、有害物質が土に浸透した環境が生まれている。その土地の有毒ガスを計測したところ、25ポイント以上で有害と判定される基準を大きく振り切り、999.9ポイントだったという。
それらの空気を吸い、また土壌で育った野菜を接種することで徐々に病に蝕まれ、命を落とす人も少なくないという。そこに住む住人の平均寿命は30〜40代だそうだ。
自分が生活費を稼ぐための道具にしていた電子機器が巡り廻ってガーナに投棄され、現地の人々の命を縮めているのかと、長坂氏は衝撃を受けることに。
またその後、電子機器だけでなくガーナの海辺一面に廃棄された衣類が広がっている場にも遭遇。先進国から寄付という形で届けられる衣類が1週間で約1500万枚にものぼるという。ガーナの人口は約3000万人。2週間でガーナ住民全ての人へ衣類が届く枚数になる。
年中高温の地域であるにも関わらず、フリース等その地の気候に適していない衣類や、着用が困難なほどボロボロになった衣類も多く、その中から現地の住人が実際に着用している衣類の数はほんのわずかだ。
「ガスマスクを付けていても30分で喉が痛くなり、1時間で頭痛をもよおしました。正直に話すと、実際に現地を目の当たりにした時、この課題を解決しないといけないのか。と、課題の大きさに腰が抜けてしまいました。それほど深刻な問題だったんです。
それでも、昨年から始動した事業が、これから大きなターニングポイントになると手ごたえを感じています」
と、実際に現地視察のため訪問した木村氏も、大きな衝撃を受けたと語る。
アート作品から教育・文化・雇用を創造する
この課題から目を背けてはならないと長坂氏は思い、何かできないか思案したところ、電子ゴミを使ってアート作品を作り、その売上げを現地の人たちに還元できないかとひらめいた。
電子ゴミを作品にすることで現地のゴミも減り、先進国の人がガーナの現状をリアルに知ることができると考えた。
2018年に開催した個展で電子部品を用いたアート作品を展示したところ、ガーナの子どもをモチーフに描いた作品に1500万円の値が付いた。その他にも、電子ゴミだけでなく衣類ゴミを用いた絵画や立体アートに着手し、2022年には約900点のアートを作り、およそ8億円の売上に。
これらの売上で現地の人たちの健康を守るため1,000個以上のガスマスクを提供。また、教育の場として完全無償の学校運営や、スラムに文化を提供すべくアーティスト育成・ギャラリー運営を実施。ただ寄付するのではなく、現地の人々が安全・健康に働ける場を創ろうと、子供たちにアート教室を開き、実際に出来上がった作品も長坂氏の同ギャラリーで販売。売上の10%を子供たちに還元している。
■MAGO MOTORS JAPANの創業
しかし、これらの売上の大半を長坂氏のアーティスト活動で賄っていることから、脱アート依存を目指し、企業としての持続性を確立すべく2022年9月より「EV事業」「リサイクル事業」「農業」の3つの事業が始動した。これらの主軸は自分たちだけで解決するのではなく、”みんなが参加できる”サステナビリティに特化していることだ。どの事業も環境の課題と貧困の課題の両面にアプローチしている。
まずは現地ガーナのスラム街に住む人が安全でクリーンな労働環境で働けることに重点を置き、スタート。最終的には後進国と先進国の境目を無くすことこそが使命だと語る。
EV事業
現地の電子部品を活かしてEVバイク、キックボードを製造し、販売を目指すEV事業。先ずは日本での販売から始め、MAGO CREATIONが持つニューヨークやパリのギャラリーとの繋がりを活かしてグローバル展開を視野に入れている。
現地ガーナもバイク文化のため、バイクを持っていることがステータスの一つとなる。
「スラムから自分たちで作ったEVバイクを持つ人が増え、誇りを持ってもらえると嬉しい」
と木村氏は語る。
リサイクル事業
リサイクル事業では、電子ゴミから有害な物質を無くし、粉砕処理を施してできたタイルの販売から着手。安心・安全・利便性の高い製造環境、製造商品の開発を目指して何ヶ月も試行錯誤を繰り返し、MAGO BLOCKというタイルを開発。
現在、サボディショップ等で什器などに活用。順次起用いただける方の輪を広げている。
農業
服を土に返す取り組みを行っているCRESAVAという企業と協業し、大量の廃棄衣類を土壌に還す仕組みを開発中。
現地で3エーカー(サッカーコート約3つ分)の土地を購入し、およそ500本のコーヒー苗を植込み、栽培している。ここで育ったコーヒー豆を用い、日本のカフェで販売する予定だ。
農作物を育てることで空気を綺麗にすると共に、日本でも新しいサステナブル空間として発信の場にしていきたいと考えている。
■今後の展望
今後の展望は、2030年に100億円規模の事業へ成長させ、1万人の雇用達成を目指す。
ガーナ首都の郊外にあるこのアグボグブロシーというスラム街にはおよそ3万人の人が暮らしており、1世帯3人だと概算すると1万人の雇用でほとんどの世帯を補えると考え、目標に。
今後の環境・文化・経済の3つが循環したサステナブル・キャピタリズム(経済活動を通じた社会貢献の実現)に向けて、アート活動と新しい事業の躍進を続ける。
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