インタビュー/企画

“ゲーム感覚で楽しんでゼロウェイストに挑戦” サスティナブルについて考える。大沢伸一×福屋剛 対談

音楽家、作曲家、DJ、プロデューサーとして国内外の様々なアーティストのプロデュース、リミックスを手がけ、MONDOGROSSOとして知られる大沢 伸一(おおさわ しんいち)様と弊社代表の福屋が対談。

ナッツミルクのお店を開きたいという想いが現実になり、2021年7月に代々木八幡にオープンした、マカデミアナッツミルクとヴィーガンフードのお店「THE NUTS EXCHANGE」。

「我慢するのではなく、ゲーム感覚で自分たちでどこまで挑戦できるかを楽しみながらやりたい」

と、開業に至った経緯から環境への想い、これからの日本に期待することまで幅広いテーマにわたり、熱く語って頂きました。

THE NUTS EXCHANGE

コロナ禍の交流から、想いが形に。

店舗外観

福屋:
早速ですが、去年(2021年7月)オープンされた「THE NUTS EXCHANGE」を立ち上げられた背景について教えてください。

大沢様:
2年前、僕が手掛けるGINZA MUSIC BARがコロナの影響を受け、営業できなくなったのですが「不安な時だからこそ、音楽だけは配信していこう」と決め、いち早く配信を決定。そのLIVE配信を通しファンの方々と交流していく中で、「ナッツミルクのお店をやってみたい」と話していたところから発展し、GINZA MUSIC BARが営業できない分、お店の中で実際に実験的にナッツミルクを作り始めたことがきっかけです。

もともとRHYME SOのパートナーで女性ミュージシャン/モデル/DJ/詩人であるRHYME (ライム) は自宅で自らナッツミルクを作っていたり、GINZA MUSIC BARの共同経営者でもあるTORIBA COFFEE代表 鳥羽伸博(とりばのぶひろ)君ともナッツミルクやりたいねってまえから話していて、(彼は先走ってナッツミルク作るために石臼まで調達していた)、まずは実際に作って小さく販売するなど、できることから取り組み始めました。

そうしているうちに、代々木八幡にちょうどいい物件が空くことを知り、元々牛乳が苦手でナッツミルクに興味を持っていた湘南乃風「若旦那」として知られる新羅慎二(にらしんじ)君にも声をかけ、最終的には鳥羽君、新羅君、僕の3者でTHE NUTS EXCHANGEを開店することになったんです。

考えるきっかけになってほしい。

ドリンクメニュー

福屋:
マカデミアナッツミルクを飲んでいて思ったのですが、思っていたより口当たりもよくマイルドなんですね。作る際にこだわっていることはありますか?

大沢様:
現在市販で製品化されているナッツミルクは乳化剤などが入りナッツの割合が少ないのに比べ、うちのは余計なものを一切入れず、水とナッツとオイルだけで作っているところですかね。
マカデミアナッツはアーモンドの3倍くらいの値段がするということもあり、世の中にあまりマカダミアナッツミルクは出回っていません。うちのナッツミルクは800円と、実は一番高い商品なんです。笑

福屋:
このナッツミルクが一番高いんですか?何故なのでしょう?他の商品はどれくらいで提供しているのでしょうか?

大沢様:
マカデミアナッツ自体が高値なので、別のなにかで割れば割るほど安くなるんです。コーヒーをナッツミルクで割ったマカデチーノが650円と、ミルクの配分が少なくなる毎に安くなっています。笑
でも、こういう理由を都度都度こちらから発信していくことは難しいと思うのですが、実はこれを「高い」と思っていただくことが大事なんです。
なぜ一番高いのかという疑問が生まれることでその背景や新しい視点を持ってもらうきっかけにしてほしいと考えています。

自分も何が100%正しいかはわかりませんが、例えば、牛などの畜産物は温暖化を加速させる要因になっていると言われることもあります。
でもその牛乳の代替案として「こんなミルクもあるんだ」と気付くことで、「だったらこれはどうだろう?あれはどうだろう?」と値段や商品をきっかけにアイデアが広がっていっていただければ嬉しいですね。

ゲーム感覚でゼロウェイストに挑戦。

リユースバッグ

福屋:
ヴィーガンのお店であると同時に、ゼロウェイスト※1を目標にされているとのことですが、どんなきっかけで掲げられたのでしょうか?

大沢様:
オープン時、「どんなお店にする?」と話し合う中で掲げたコンセプトがゼロウェイスト宣言でした。(目標としてのゼロウェイスト)

ヴィーガンミルクの提供自体が多様性を広げることに繋がっていると信じていますが、それだけでなく、自分たちにとっても環境問題について考えるきっかけの場所になればいいなと思うんです。

だったら、みんなにもちょっとでも楽しみながら考えてもらえるようなお店にしたいなと思い、どうやったら新しい資源を多用せず店を切り盛り出来るか?どうやったらゴミを極限まで出さない運営が出来るのか?をともに考える意味でヴィーガンだけでなくゼロウェイストを掲げました。

我慢ばかりを強いるのではなく、楽しみながら実践したい。ゲーム感覚で色んなことに挑戦していきたいですね。

福屋:
具体的にどのような取り組みをされていますか?

大沢様:
店内の内装のほとんどは古材を採用したり、ナッツミルクを作る過程で出るパルプを焼き菓子に使ったり、食器やマグカップもドネーションなどを利用し、新しい物は使っていないんです。プラスチックもなるべく使用したくないので、持ち帰り用のカップはバタフライカップ※2を、袋はお客さんに持ち寄ってもらったリユースバッグを使っています。デリで使う野菜についても、生産者さんから直接買えるファーマーズマーケットで仕入れた可食部の多いものを使用しています。こういったことを積み重ねることで、基本的にゴミがでない店になってきましたね。

とは言っても、商売である限り営業を維持していかなければならないので、お客様へナプキン一つ提供するにしても、「これはゴミになってしまうんだな。」とわかっていながらも、お客様のことを思うと渡さなければならない。その代わり極力小さくして渡そう。など切ない努力もたくさんあります。

※1 ごみをゼロにすることを目標にした活動
※2 上部にあるベロの部分を折りたたむと蓋になるプラスチックの蓋やストロー不要の環境に優しいドリンクカップ

福屋:
なるほど、、、。ナッツミルクに留まらず、あらゆる角度からサスティナビリティを考えてらっしゃるんですね。

大沢様:
立ち上げメンバーの新羅君は「循環」という環境をテーマに構成された書籍も出版していて、この店を開店する上でも「何かを循環させていく」というテーマがあったようです。結果、そういったみんなの環境への想いが詰まった店にすることができていると思います。

変化しつつある環境への意識。

左:福屋 右:大沢様

福屋:
近年、社会全体として環境への意識が向上しているように思いますが、どのようにお考えでしょうか?

大沢様:
僕自身もそうですが、このコロナ禍が生きる上で
「本当にやらないといけないことって何だろう」
「本当に楽しむべきことって何だろう」
「本当に大切な人って誰だろう」
と考えるきっかけとなり、ゼロよりも何かやろうよ。と、多くの方の意識も一段と上がったのではないでしょうか。
僕がこういったことを話し続けているからというのもありますが、実際に僕の周りはサスティナビリティに関して話す人も増えた気がしますね。

福屋:
そうですよね、特にここ数年は気候変動をはじめ、地球で起こる様々な変化に体感的にも気がつかざるをえない状況ですよね。社会全体が「何かしなければ」と感じ、みんなが少しずつ行動に移しているのかもしれないですね。

大沢:
これは僕独自の考えかもしれないですが、地球温暖化一つとっても、日々予測や分析などは変化していて、一体何が事実でどういった行動が正解かは正直誰にもわからない状況になっているなと思います。人によっては、今現に「温暖化は起こっていない」と唱える人もいます。しかし、いまやっている努力は決して無駄にならないと思っています。

環境問題を別にしても、本当にこれって自分の幸せにつながっっているのかな?と今までの生活を振り返るきっかけになっていることは悪くないのではないでしょうか?

現代生活は利便性こそ向上しましたが、それが本質的な幸せとは限らないので、こうして時々立ち止まって普段の生活を見直し、それぞれが考え行動に移していくこと自体、とても大切だなと感じています。

「我慢」するのではなく、こっちの方が気分良くない?と楽しめるかどうか。こうやったら面白くなるんじゃない?と考えながら取り組むことで楽しんで続けられています。

福屋:
楽しみながらやることは非常に大切ですよね。
私の周りにも、「自分がやっていることは環境に悪影響を与えているのではないだろうか。何もやらない方がいいのではないか。」と落ち込んでしまう人が多くいました。

大沢様:
私も初期は同じことを考えていました。
今の社会問題について色々調べたりした時は辛い現実ばかり突きつけられて、「何もやらないことが正義なんじゃないか?」と思ったこともありますが、やはりクリエイションは止められないし、止めちゃいけないと考えています。

今こそ各々が考え、多様性を認める世の中に。

福屋:
世界を舞台に活躍されていますが、他国と日本を比較し環境への意識の差を感じることはありますか?また、こういう世の中になってほしいという展望があれば教えてください。

大沢様:
「ものごとの本質を捉え、自分の価値観で考える」ということが、日本人は少し苦手に感じますね。特に近年日本のメディアの在り方が大きく変わりつつあるからこそ、情報や常識を鵜呑みにせず自分で考えていく必要があると思います。

また日本では議論を避ける風習がありますが、本当は意見が違うからこそ議論して互いに理解を深めていくべき。色んなことに対して、多様性を認め合える世の中になってくれればいいですね。

スマセルは時代に沿った素晴らしい取り組み。

山積みにされた廃棄物

福屋:
ファッション業界でも年間200億着以上もの廃棄ロスがあると言われており、深刻な環境問題になっております。このような現状をどのように感じられますか?

大沢様:
アパレル業界だけが悪いわけではなく、例えば食品業界にしても、巨大産業は地球環境との共存という意味で難しいと思います。大量に生産して単価を下げない限り産業として成り立たないこと自体に無理があるのではないでしょうか。
ちょっとずつ何かを分散しながら個々で違うことをやり始めるなど、まずは規模を抑えていくことが大事だと考えます。

福屋:
我々が運営するSMASELL(スマセル)は、このようなファッションの廃棄ロスを無くし温暖化を抑制するために立ち上がったサービスで、在庫を最後の一点まで届けたいブランドと必要とするユーザーをマッチングする共創型プラットフォームです。この取り組みについてどう思われますか?

大沢様:
サービスを開始したのが4年前ということで、先見の明があったのではと感じますね。当初はまだ世間の理解も少なく、大変だったと思います。
ビジネスモデル自体がファッション業界が抱えている課題そのものを解決しようというものなので、今の時代に沿った素晴らしい取り組みだと思っていますし、どんどん加速していってほしいですね。

福屋:
大沢さんと業界こそは異なりますが、社会に問題定義しその課題に対して取り組んでいくという意味では共通点があり、目指している方向性も同じだと感じています。
環境問題は、一つの業界だけで解決できるものではないので、消費者の方をはじめ、企業や行政、アーティストの方など、共感の輪をどんどん広げていけたら嬉しいなと思います。
こうして業界を超え対談できたことは、非常に良い経験になりました。本日はありがとうございました。

 

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大沢 伸一(おおさわ しんいち)

音楽家、作曲家、DJ、プロデューサー。国内外の様々なアーティストのプロデュース、リミックスを手がける他、広告音楽、空間音楽やサウンドトラックの制作、アナログレコードにフォーカスしたミュージックバーをプロデュースするなど幅広く活躍。2017年14年振りとなるMONDO GROSSOのアルバム『何度でも新しく生まれる』をリリース。満島ひかりが歌う「ラビリンス」のミュージックビデオはこれまでに3000万回以上再生されている。おもなサントラ担当作品にTVアニメ「BANANA FISH」、蜷川実花監督映画「ダイナー」。現在は新ユニットRHYME SOで東京から世界へ楽曲を発信している。


店舗情報

THE NUTS EXCHANGE

東京都渋谷区富ヶ谷1-51-1 1F
https://tabelog.com/tokyo/A1318/A131810/13261265/

■GINZA MUSIC BAR

東京都中央区銀座7-8-13 ブラウンプレイス4F
03-3572-3666
http://ginzamusicbar.com/

 

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